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神戸地方裁判所 昭和45年(ワ)974号 判決

原告 奥田文彦

被告 キヤタピラー三菱株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

被告は原告に対し別紙目録記載の物件を引渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告主張の請求原因

一、別紙目録記載の物件は、もと訴外広洋建設株式会社(以下単に広洋建設という。)の所有であつたが、訴外竹本勲が強制執行のため差押え、昭和四五年七月一五日神戸地方裁判所執行官によつて競売され、原告が右物件を競落し代金の支払をなしその引渡を受け所有権を取得した。

二、仮に右物件が広洋建設の所有でなかつたとしても、右の経緯で競落した原告は平穏かつ公然に右物件の占有を始め、占有の始めに善意であつたから民法一九二条により所有権を取得したものである。

三、被告は右物件を占有している。

四、よつて、被告に対し、所有権に基づき右物件の引渡を求める。

第三、被告の答弁(認否及び事情)

一、被告が右物件を占有していることは認めるが、その余の事実は争う。

二、被告は、建設機械の製造、販売を業とするもので、本件物件は被告が製造し、別紙目録(一)の物件は昭和四五年四月一日八〇七万九、六六九円で広洋建設に、同(二)の物件は昭和四三年八月一日七八一万八、三九九円で、訴外有限会社堀河組に、何れも所有権留保付で売渡したところ、右広洋建設らは、右代金を完済していないので所有権は被告にあるものである。従つて原告が右各物件を競落しても所有権を取得するものではない。

そこで、被告は、昭和四五年七月下旬頃、(一)の物件を神戸市東灘区住吉町鴨子ケ原二丁目で、(二)の物件を同市兵庫区山田町小部字妙賀で、それぞれ発見し、所有権に基づき、被告会社の従業員により被告会社に持ち帰つたものである。

三、前記競落は、原告が訴外桶辰商事株式会社(以下桶辰商事という)のためにしたものであるから原告は所有権を取得しない。原告は、本件各物件を差押のなされた前項の場所に保管人を置かず保管方法も講じないまま放置していたもので一般外観上従来の占有状態に変更を生ぜしめる占有を取得していなかつた。また、原告は、本件建設機械について所有権留保付で売買され広洋建設の所有でないことを知つて競落したからその占有の始めに悪意であつた。従つて、原告は民法一九二条により所有権を取得しない。

第四、被告主張の抗弁(原告に過失がある。)

原告は、土木建築資材の販売、土木建築請負工事等の営業をしている訴外桶辰商事の職員であつて、建設機械の取引業界では、建設機械は所有権留保付で販売されることを知りうる立場にあり、本件競落に際し注意して調査すれば、本件物件も所有権留保付で販売されていたことを知り得たのに注意しなかつたためにこれを知り得なかつたのであるから、その占有の始めに過失があり、民法一九二条により所有権を取得しえない。

第五、原告の答弁

抗弁を否認する。

第六、証拠〈省略〉

理由

一、成立に争いがない甲第一号証の一、二、乙第三ないし第七号証、証人堀河静夫の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一号証、第二号証の一、二に証人堀河静夫、同竹本勲の各証言及び原告本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

被告は、建設用機械等の製造、販売等を業とするものであつて本件物件も被告が製造し、別紙(一)の物件は昭和四五年四月一日八〇七万九、六六九円で広洋建設に売渡し、同(二)の物件は昭和四三年八月一日七八一万八、三九九円で訴外有限会社堀河組に一旦売渡したが、昭和四四年四月二四日広洋建設に売渡したことに改めた。右売買は何れも所有権留保付で売渡して引渡し、代金が分割払とし、その完済された時に買主に所有権を移転する約であつたところ、右広洋建設らが代金を完済していなかつたので所有権は被告にあつた。竹本勲は、広洋建設に債権があり、執行認諾文言のある公正証書の執行力ある正本を有していたので、これをもつて強制執行の申立をなし、神戸地方裁判所執行官は、(一)の物件について昭和四五年七月六日、(二)の物件について同月四日、それぞれ、広洋建設が占有しているものとして差押をなし、同月一五日、(一)の物件を神戸市東灘区住吉町鴨子ケ原二丁目で、(二)の物件を同市兵庫区山田町小部字妙賀で、それぞれ競売し、原告が競落した。原告は、競落後、右物件は直ちに運搬しうるような物件ではなかつたので、田淵泰宏に保管を依頼し、(一)の物件については競売場所から邪魔にならないように片すみに寄せて置き、(二)の物件についてはそのまま競売場所に置いた。

ほかに右認定を覆すに足る証拠はない。右の事実によるとき、本件物件は何れも広洋建設の所有ではなかつたが、原告は右競落において、特別の事情のない限り民法一九二条にいう平穏かつ公然に右物件の占有を始め、占有の始めに善意であつたというべきである。

二、そこで、被告主張の抗弁について判断する。

前記証拠に証人西川勝彦、同永田義範、同野村克美の各証言を合せて考えると、次の事実を認めることができる。

被告の本件物件の売買は、広島県福山市に所在する福山支店で扱つたものであり、同県三原市に所在した広洋建設は、主として三原市付近で土木工事等に使用していたが、広洋建設は、その経営が不振で、昭和四五年六月頃には倒産が予測される状態にあつた。そこで、被告は、広洋建設に売渡した建設機械七台を、同月三〇日に引上げることとして、前日の二九日調査したところ、何れも福山市付近にあつたので、右三〇日に引上げるため各現場に会社職員を派遣したところ、現場には三台しかなく、本件物件を含む四台は前夜中に、竹本勲が何処かに持ち去つたためなくなつており、後に岡山県下で一台が発見されたので結局四台を引上げることができた。しかし残り三台は発見できず、福山市内等の運送屋を通じ、兵庫県加古川市方面に運搬されたと聞き、被告福山支店の職員を派遣すると共に被告会社近畿支社にも協力を求めて探した結果、前記競売場所で本件物件二台を発見したので、その旨警察に連絡すると共に被告会社兵庫支店に引上げて保管した。本件物件に対する競売は、竹本勲が神戸市に運搬し、被告がその所在を探しているうちになされたものであつた。

原告は、桶辰商事の職員であつたが、桶辰商事は土木建築事業を営むと共に金融業をも営み、当時九州にゴルフ場を建設していたため建設用機械を必要としていた。昭和四四年一〇月頃、桶辰商事及び竹本勲らは福山市内に集り広洋建設の帳簿を検討しながら経営について協議し、その後桶辰商事は広洋建設に約七〇〇万円を営業資金として貸与し、それが弁済期に弁済されなかつたのでこれについて話合がなされたりもした。竹本勲は、広洋建設が倒産寸前の昭和四五年六月二五日に作成された公正証書で、前記のとおり本件物件に強制執行をなしたが、原告は、その勤務する桶辰商事の上司から、同年七月四日、本件物件が競売になるから競落するように言われ、合計九〇〇万円を支出して本件物件を含めて三台の建設機械を前記のとおり競落したのである。ところで建設機械は高価なものであり、当時土木建築業者がこれらを買受けるについて、販売業者は代金の支払を確保する等のため所有権を留保して売渡し、代金は分割払としその完済の際に所有権を移転するものとの方法をとるのが多い実状である。

以上の事実が認められ、ほかに右認定を覆すに足る証拠はない。

以上の認定した事実によるとき、原告は土木建築業を営む桶辰商事に勤務していたものであるから右のような建設機械売買の実状については知識をもつていたであろうし、本件競売に際し、合計九〇〇万円もの金員を支出して本件物件を含めて三台の建設機械を競落しようとしたのであるから競売物件の所有関係及び競売に至つた事情等について当然に慎重に調査すべきであつたし、競売手続には上司からの示唆により加わつたものであり、しかも桶辰商事は、かつて広洋建設の帳簿等を検討して経営について協議しているのであるから容易に右調査をなしうる地位にあつたので、すこし調査すれば本件物件の所有権が広洋建設になかつたことを知り得たのであり、このような調査をしないで競落した原告には、本件物件の占有を始めるについて過失があつたものと言わなければならない。

被告の抗弁は理由がある。

三、よつて、原告は、所有権を取得したとは認められず、その余の点について判断するまでもなく本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 下郡山信夫)

(別紙)目録

(一) 九五五ブルドーザーシヨベル

七一J一四二五 キヤタピラー三菱製

(二) D-六ブルドーザーシヨベル

九六A-五二五 A六一-Xキヤタピラー三菱製

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